先日飛び込みで来院された方がありましたが、
「私の肩こりは酷いから、強くしっかりとマッサージしてもらわないとほぐれないのよ。マッサージしてくれないなら他の整体院へ行きます」
当然、当院でご提供している整体施術がどのようなものであるか、金額がいくらであるか、どれくらいの頻度で通院する必要があるのか、などなどは全くの未知数で飛び込み来院されているため、分かる術もないことでしょう。
当然この方がお怒りになられて他の整体を受けに行くと言われても仕方ないことではあります。
ですが、肩こりに対して本当にマッサージをしなければ肩こりは解消されないのでしょうか?
医学用語に「アルントシュルツの法則」もしくは「プリューゲルの法則」というものがあるのはご存じでしょうか?
「知るわけないやろ」
そうつっこまれそうですが、どういった法則かというと、
①弱い刺激を与えると、神経機能が目覚める
②中程度の刺激を与えると、神経機能が興奮する
③強い刺激を与えると、神経機能が抑制する
④最強度の刺激を与えると、神経機能が停止する
という、体に与える刺激の強度と神経や筋の興奮性や反応について述べた法則であり、プリューゲル・アルントシュルツって多分人が発見した法則のこと。
要するに、弱い刺激であれば神経は正しく働きだし、強い刺激ほど神経がバカになるというものです。
この整骨院という業界に携わってから早25年以上が経ちましたが、自身がこの業界に入った時は昔の慣習というか名残というか、徒弟制度のような主従関係なるものが存在していて、整骨院で弟子として師匠の下で指導を受け、師匠が認めた者でなければ国家資格を取得するための専門学校や大学へ通うことが許されず、しかも今ほど労働基準法も厳しいことはなかったため、お給料を頂くというものではなく、師匠からお小遣いを分け与えてもらうというような、今考えれば相当ダークな業界でもありました。
知っている同期生の中には、毎月3万円のお小遣いを頂き、毎日朝8時~夜8時まで整骨院でマッサージや電気治療器をつけたり外したりという補助をこなし、仕事後に先輩からマッサージや矯正の技術を教わる代わりに、毎月勉強料と称して3万円支払い、結局プラスマイナスゼロというような非常に酷な話を耳にしたこともあります。
ひと昔前の整骨院での技術習得と言えば、マッサージの方法だったりストレッチの方法だったり、ボキボキと背骨や骨盤を矯正するところまでを習得すれば立派な一人前と言われるレベルでした。
当然、この業界に入ってまず習得するのは誰でも何度か訓練すればできるようになるマッサージ。
普段肩こりなど無縁の体でありながら、練習生同士でマッサージの練習をしていた時が一番肩こりが酷かったのを今でもよく覚えています。
肩のマッサージをようやくそれなりにできるようになれば、今度は最強にカチコチになっている肩こりがとてもひどい方をアテンドされ、指がボロボロになり、指ではとても無理となると今度は肘を使って肩こりでガチガチになっている筋肉を最強レベルで揉み続け・・・。
結果、そのような刺激を受け続けていると、神経停止を引き起こし、どれだけ強い刺激でマッサージしてもらっても全く効いている気も筋肉がほぐれている感じもしなくなってくるというのがオチというものです。
以前当院に来院された方でこのような方がいらっしゃいました。
その方は肩こりが酷く、もみほぐしに1週間に1回60分しっかりと肩を中心に揉んでもらっていたそうです。
やや痛いくらいのマッサージで毎週通い続けているうちに、次第に1週間に1回では物足りなさを感じ始め、1週間に2回通うようになりだしたそうです。
さらに1週間に2回ではまた物足りなさを感じだし、1日おきにほぐしてもらいに足しげく通うようになってきたとのことです。
そして気が付けば毎日もみほぐし屋さんの予約を取り続けている自分にハタと気がつき、もみほぐしに通うことをやめて自身で肩こりに効果的な体操をユーチューブなどで見ては取り組んだ結果、今では体操しながら当院で肩こりを解消するための整体を受けてからほとんど肩こりが気にならなくなったという方もいらっしゃいます。
プリューゲル・アルントシュルツの法則と合わせてよく使われる用語に、「オーバードーゼ」または「ドーゼオーバー」と言われるものがあります。
ドーゼとは日本語で言うと「刺激量」のことを表します。
要するにドーゼ(刺激量)がオーバー(過剰)になってしまうことを表しています。
よくこんな言葉を耳にします。
「マッサージしてもらうの苦手やねん。揉んでもらった後って揉み返しで筋肉痛みたいにあちこち痛くなるから」
というもの。
これがいわゆるオーバードーゼやドーゼオーバーというものの代表例です。「揉み返し」とか「揉み起こし」などと表現される方もいらっしゃいます。
それこそ昔見習い時代によく院長から言われていたことで今になったらそういうことかとハッとさせられた言葉に、
「ちょっと痛いくらいのマッサージで揉んであげるほうが明日もまた来てくれるから、しっかりと揉むように」
というもの。
当時は
「肩こりや腰痛が良くなったら通院間隔を少しずつ開けましょうって言ってあげるほうが良くない?」
と疑問に感じていましたが、今思えばオーバードーゼによって一生揉み続けないといけない体づくりを提供していたのかと考えると大麻や麻薬を提供しているのと何ら変わらないことをし続けていたのかと後悔の念にすら駆られます。
「母さんお肩を叩きましょう~」
なんて肩たたきの歌まであるくらいですし、子供から肩たたき券なるものをプレゼントされたことがある方もいらっしゃるかも知れませんが、あれは子供の親に対する虐待行為みたいなものです。
良かれと思って肩たたき券を子供は作ってプレゼントしてくれますが、余計に肩こりを引き起こしたくなければ肩たたき券ではなくお皿洗い券かお風呂掃除券などのお手伝い券をプレゼントしてもらうと良いでしょう。
「でも肩こりあまりにも辛いときは家族に叩いたり揉んでもらったりしないで他の方法で何か解決策ない?」
とよくご質問されますが上述のとおり、プリューゲル・アルントシュルツの法則に従えば、弱い刺激で適度に肩の筋肉を擦ってあげることです。
擦る程度の刺激であれば弱刺激となるため、オーバードーゼとならない程度の時間帯で肩を擦ってあげるほうがはるかに肩こりには効果的と言えるでしょう。
ですが、もうすでに強烈な刺激で揉まれ続けてしまっている方は、凝ってはいても懲りずに強刺激でガンガンと揉んでもらい続けてその場しのぎで神経停止のままずっとごまかし続けるか、考えを改めてしばらくは弱い刺激で物足りなさを感じながらも継続してソフトな整体や自分自身で肩こりを解消する体操を繰り返すかです。
「強い刺激でなければ満足できない」
「全身マッサージで揉んでもらうのが整体だと思っている」
「肩こりが解消するよりも一時的なリラクゼーションで良い」
そのように考えている方には当院ではお役に立てそうにありませんが、
「どこの整骨院行ってマッサージしてもらっても肩こり解消されないがなんとかしたい」
「しょっちゅうもみほぐしに通ってもその時だけ楽で結局一緒なのをなんとかしたい」
そのように考えておられる方は当院でお役に立てるかも知れません。
あなたのその酷い肩こりも、もしかしたら強いマッサージよりもソフトにしてあげるほうが解消されるかも知れませんね。