
2.日常生活でできる予防法

手根管症候群は、日常生活のちょっとした工夫で予防できる場合があります。ここでは、手首への負担を減らし、症状の悪化を防ぐための具体的な方法を詳しくお伝えします。
①手首への負担を軽減するストレッチと運動
手首や指の柔軟性を保つことは、手根管症候群の予防にとても大切です。
手首の準備運動:
手首回し: 腕を前に伸ばし、手のひらを下に向けて、ゆっくりと手首を内外にそれぞれ10回程度回します。
手のひらを広げる・握る: 指を大きく開き、ぎゅっと握る動作を繰り返します。血行促進にもつながります。
屈筋腱のストレッチ:片方の手のひらを上にして腕を伸ばし、もう一方の手で指先を下方向に優しく反らせるように持ちます。手首がしっかりと伸びているのを感じながら、20秒ほどキープします。これを数回繰り返しましょう。
指のストレッチ:それぞれの指を一本ずつ優しく根元からストレッチします。特に親指の付け根を意識して動かしましょう。
これらのストレッチは、デスクワークの合間や家事の休憩中など、こまめに行うのが効果的です。
②正しい姿勢と動作の意識
日常生活での姿勢や手の使い方を見直すことで、手首への負担を大きく減らすことができます。
a.デスクワークでの工夫
キーボードとマウスの配置:キーボードとマウスは、肘が直角に曲がり、手首がまっすぐになるような位置に置きましょう。手首が不自然に反ったり、曲がったりしないようにします。
リストレスト(アームレスト)の使用も有効ですが、リストレストに手首の付け根だけを乗せるのではなく、手のひら全体をサポートするようなものを選ぶと良いでしょう。
b.椅子の高さ調節:足が床にしっかりつき、太ももが水平になるように椅子の高さを調整します。肘と手首の角度も意識しましょう。
c.休憩の取り方:連続して同じ作業をするのは避け、30分に一度は休憩を取り、軽いストレッチや手の運動を行いましょう。
③家事や趣味での注意点
持ち方・握り方:包丁やペンなどの道具を持つ際は、力を入れすぎず、リラックスして持ちます。力を分散させるために、少し太めのグリップカバーなどを利用するのも良いでしょう。
作業台の高さ:料理やアイロンがけなど、手を使う作業の際は、作業台の高さが適切か確認しましょう。手首が無理な角度にならないように調整します。
重い物を持つ際:重いものを持ち上げる際は、手首だけでなく、腕全体や体全体を使うように意識しましょう。
④睡眠時の手首の保護
寝ている間に手首が不自然な角度になってしまうと、手根管内の圧迫を強めてしまうことがあります。
ナイトスプリント(装具)の利用:就寝中に手首をまっすぐな状態に保つための装具(スプリント)を使用することで、正中神経への圧迫を軽減し、夜間の症状悪化を防ぐことができます。これは医師や専門家と相談して、適切なものを選択しましょう。
寝姿勢の工夫:うつ伏せで寝ると手首が曲がりやすくなるため、仰向けで寝ることを心がけましょう。また、枕の位置なども調整して、全身がリラックスできる姿勢を見つけましょう。
⑤冷やしすぎ・温めすぎに注意
適度な保温:特に冬場は手元が冷えやすく、血行が悪くなると症状が悪化することもあります。手袋やアームウォーマーなどで適度に保温しましょう。
極端な温度変化の回避:冷えすぎや温めすぎは避け、心地よいと感じる温度を保つことが大切です。
⑥食生活と体調管理
バランスの取れた食事:体の健康は手首の健康にもつながります。炎症を抑える効果が期待できるオメガ3脂肪酸(青魚などに豊富)や、ビタミンB群(特にビタミンB6)が神経機能の維持に関与すると言われています。
⑦むくみ対策:塩分の摂りすぎは体をむくませやすく、手根管内の圧力を高める可能性があります。塩分を控えめにするなど、むくみ対策も意識しましょう。
⑧適度な運動と休息:全身の血行を良くし、ストレスを軽減することも大切です。適度な運動と十分な休息を心がけましょう。
これらの予防策を日常生活に取り入れることで、手根管症候群の発症リスクを減らし、症状の悪化を防ぐことができるでしょう。もしすでに症状がある場合は、これらの予防策と並行して、早めに専門家に相談してください。
3.手根管症候群の治療法:医療とセルフケア

症状の程度や原因によって、いくつかの治療法が選択されます。まずは、手術をしない「保存的療法」が試され、それでも改善しない場合や症状が重い場合は「手術療法」が検討されます。
a.保存的療法
保存的療法は、手首への負担を減らし、炎症を抑えることで症状の緩和を目指す治療法です。
薬物療法
飲み薬や塗り薬が使用されます。
消炎鎮痛剤: 痛みや炎症を抑えるために処方されます。
ビタミンB12: 神経の機能を回復させる効果が期待できるとされています。
漢方薬: 手のむくみを軽減させる目的で処方されることがあります。
局所の安静と固定
手首への負担を減らすために、以下の方法が用いられます。
運動・仕事の軽減: 手首や指を酷使する作業を控え、安静を保つことが重要です。
装具療法(スプリント固定): 手首をまっすぐに保つ装具(スプリント)を装着することで、手根管内の圧迫を軽減します。特に夜間の使用は、明け方のしびれや痛みの軽減に効果的です。
注射療法
手根管内注射: 炎症を抑えるステロイド剤を手根管内に直接注入します。これにより、滑膜のむくみを抑え、神経への圧迫を和らげます。ただし、ステロイド注射は腱の変性や脆弱性を引き起こすリスクも指摘されています。
b.手術療法
保存的療法で改善が見られない場合や、母指球の筋肉が著しく萎縮している場合、手根管内に腫瘤がある場合などに検討されます。
手根管開放術
最も一般的な手術で、神経を圧迫している靭帯を切開して、手根管を広げます。
目的: 正中神経への圧迫を取り除き、神経の血行を改善することで、しびれや痛みを緩和します。
方法: 手のひらの一部を切開して行う「直視下法」と、内視鏡を用いる方法があります。脇の下への麻酔注射(伝達麻酔)で日帰り手術として行われることもあります。
術後: 手術後は手首の安静を保つため、しばらくギプスで固定することがあります。
回復: 手術後も回復には時間がかかることがあり、早期の診断と治療がその後の回復を左右すると言われています。まれに、創部に関連した痛みや握力低下などの合併症が報告されています。
その他の手術
母指対立再建術: 症状が進行し、親指の対立運動が困難になった場合には、腱の走行を変えて親指の動きを改善する手術が同時に行われることがあります。
治療における注意点
自己判断を避ける: 手根管症候群の症状は、首の病気や他の神経疾患でも起こることがあります。自己判断せず、専門医による正確な診断が重要です。
症状の放置は避ける: 症状を長く放置すると、正中神経の圧迫が続き、手の運動・感覚機能が元に戻りにくくなる可能性があります。症状に気づいたら、早めに医療機関を受診しましょう。
また、代替療法として整骨院や整体院・鍼灸などといった手技療法家に相談することも一手段です。明らかな急性外傷によって手首を痛めた場合は整骨院での健康保険扱いでの治療を受けることができますが、基本的には整形外科などの医師以外では健康保険を使った治療を受けることはできませんので注意が必要です。
4.最後に
手根管症候群は手だけの症状ではありますが、体全体の使い方に問題があって手首に負担がかかった結果として現れる症状となります。そのため整形外科や整骨院・整体院・鍼灸院などを受診する際には、手だけでなく体全体でのトータルケアをしてもらえるところを探すことが重要となります。


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